トラネキサム酸はシミに効く?-文献紹介(肝斑1)

トラネキサム酸はシミに効く?-文献紹介(肝斑1)

この記事では美白成分として知られているトラネキサム酸が、本当に効果があるのか論文を紹介しながら解説していきます。

美白肌を目指したいと思っている人にとって悩ましい問題・・・。その一つにしみ、そばかす、日焼けやかぶれによる色素沈着があると思います。

肌の色素沈着などに悩みを持っている方にとっては耳馴染みあるかもしれませんが、今回はトラネキサム酸について注目してみます。

「美白肌って何?」「美白肌になるためのスキンケアってどうしたらいいの?」「漢方は美白肌に効くの?」など美白肌について詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。

今では美白成分として広く浸透しているトラネキサム酸。美白効果を期待して美容系クリニックでは一般的に処方されますし、トランシーノに代表される美白化粧品に含有される成分です。

これは肝斑改善効果が期待されるOTC医薬品のトランシーノⅡ。

こちらはトラネキサム酸配合の美容液です(ナノカプセルを使用→ナノカプセルについてはこちらの記事を参照)。

医療業界においてトラネキサム酸は止血作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用を期待して処方される薬剤という認識が一般的で、美白作用を期待した使用については例外的なものになります。

皮膚科領域でトラネキサム酸は肝斑の治療薬として処方されることもありますが、肝斑に対してトラネキサム酸を投与することは保険適応としては認められていないので自費診療になります。

一方で美容医療の分野では自由診療として自費でトラネキサム酸が処方されていますし、化粧品にも医薬部外品としてトラネキサム酸が配合されていることからも分かるように、トラネキサム酸は日常生活に広く浸透していると思います。

美容目的の処方は医療費圧迫の観点からも自費診療であるべきですが、だからといって臨床的エビデンスを無視して使っていいというものではないと思います。

ということで今回は、実際のところトラネキサム酸は肝斑にどれだけ効くの?ということを知るために一つ論文を見てみたいと思います。

Efficacy and Safety of Tranexamic Acid in Melasma: A Meta-analysis and Systematic Review

Hyun Jung Kim et al. Acta Derm Venereol.2017.

要点

システマティックレビュー
2016年3月までの期間
11件の研究
治療前と治療後の肝斑面積・重症度指数(MASI)の比較
トラネキサム酸のみ→MASIは1.60減少
既存の治療にトラネキサム酸の追加→MASIは0.94のさらなる減少
副作用は軽度
トラネキサム酸単独、他の肝斑治療の補助薬としての有効性と安全性が示されています

個人的意見

この論文はトラネキサム酸による肝斑に対する治療について11の研究から評価しています。

抄録やポスター発表のデータからも引用しているという問題点があります。

これらの研究はトラネキサムの投与方法や調査方法、人種などなど、様々なばらつきがあるので、少し強引に総合的な評価をしている印象(実際、各論文の異質性は高いというデータあり)。

それでも肝斑に対するトラネキサム酸の治療について総論的に考えるには有意義な論文だと思います。

以下にこの論文について要点をまとめてみましたので、参考にしてみてください。

イントロダクション

肝斑の主な特徴である色素沈着。原因ははっきりしてませんがメラノサイトによって誘導されるという仮説があります。さらには幹部の血管の増加や表皮の血管新生因子の発現上昇などの関与も。

アミノ酸の一種、リジンの合成誘導体であるトラネキサム酸はプラスミノーゲン分子上のリジン結合部位を可逆的に遮断することにより、プラスミノーゲンの活性化を阻害するので止血剤として汎用されています。

近年はそれ以外にも肝斑の治療薬として適応外使用されることが増えてきました。

作用機序ははっきりしていませんがトラネキサム酸は、メラノサイトとケラチノサイトによるメラニン合成を阻害すると考えられています。

経口・局所・局所マイクロ注射などによるトラネキサム酸の投与は肝斑に対する効果が示されていますが、十分な無作為化比較試験(RCT)が存在しないので有効性と安全性は明確ではありません。

文献のシステマティックレビューを通じ、肝斑患者に対するTAの単独またはアジュバントとしての有効性と安全性を検討しています。

対象と方法

データベース検索
2016年3月4日に日付や言語の制限なく検索。EMBASE(1988年~)、MEDLINE(1946年~)、Web of Science(1975年~)、Scopus(1996年~)、およびCochrane Central register of Controlled Trials(CENTRAL)(1991年~)

検索キーワード
・トラネキサム酸
「tranexamic acid」、「antifibrinolytic agents」、「tranexamic」
・肝斑
「 melanosis」、「chloasmas」、「melasma」、「melasmas」

研究の選択基準
肝斑(ヒト)において、トラネキサム酸を単独または補助的に使用した治療法を記載した原著論文。重複出版物は著者、タイトル、介入の特徴、患者数で特定。

研究の質とバイアスのリスクの評価
・バイアスのリスクと方法論の質は「the Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions」に概説されている通りに評価。
・RCT については「the Cochrane Collaboration’s “risk of bias” tool 」を使用。
・他の研究デザインについてはコクラン 「Cochrane Effective Practice and Organization of Care (EPOC)」や「Newcastle-Ottawa Scale」が提案しているバイアスのリスク基準を採用。

各アウトカムに対する効果の大きさとエビデンスの質を評価した。 2人の研究者(H.J.K.とH.S.K.)がそれぞれの研究の方法論の質を独立して評価した。 意見の相違は、コンセンサスまたは第3の研究者(S.H.M.)との協議によって解決された。 研究数が少ないため、出版バイアスは評価していません。

メタ解析の主なアウトカム
トラネキサム酸使用前後のMASIの標準化された平均値の差と、アジュバントとしてトラネキサム酸を使用した場合の MASI の変化の差。

サブグループ解析
・トラネキサム酸の投与経路
・トラネキサム酸以外の肝斑治療の種類(外用漂白剤、IPL、レーザーなど)
・試験デザインの種類(RCT、レトロスペクティブコホート研究、前後比較研究)

結果

文献検索

文献検索では解析に含める基準を満たしていない研究を除外した結果、11研究が適切と判断され、メタ解析の対象となりました(このうち抄録1件とポスター資料1件)。

図は論文から引用

研究の特徴と質

下記の表には治療結果が示されています。

合計667人の肝斑患者
試験患者はすべて成人、80~100%が女性
韓国4件、インド3件、ブラジル・イラン・ネパール・シンガポール各1件
肝斑の重症度はMASIによって評価
RCT3件、レトロスペクティブコホート研究1件、前後比較研究7件


トラネキサム酸の治療レジメン(投与方法、投与量、単独またはアジュバントとしての適用、期間など)は各々異なっていました。

経口トラネキサム酸(500-1,500mg/日)、2-6ヶ月間投与
2つの研究は単独投与
3つの研究はアジュバントとして投与

2-3%トラネキサム酸の局所投与、3-7ヶ月間投与
2つの研究は単独投与
1つの研究はアジュバントとして投与

トラネキサム酸のマイクロインジェクション(マイクロニードルリングを含む)、3-6ヶ月間投与
4件で単独投与、週1回または月1回投与

表は論文から引用

下の図には文献のバイアスリスクと方法論の質の評価が示されています。肝斑におけるトラネキサム酸の治療を評価した研究の質にはばらつきがありますが。総じて低質でした。

図は論文から引用

メタアナリシス

MASI の減少(治療前後の MASI の変化)は、トラネキサム酸単独投与の7 件の肝斑研究の主要なアウトカム指標。

トラネキサム酸の経口投与によるMASIの標準化平均減少は2.46(95%CI 1.13-3.80; p<0.001; I2 =71%)で、 注射の場合、平均1.42の減少(95%CI 0.98-1.87、p<0.001、I2 =72%)でした。

トラネキサム酸の局所投与ではMASIは1.36の減少(95%CI -0.17-2.90、p = 0.08、I2 =87%)でした。

トラネキサム酸単独治療全体としてはMASIは1.60(95%CI、1.20-2.00;p<0.001;I2=74%)の減少でした。

異質性検定ではI2>50%とトラネキサム酸単独療法の各サブグループ内では異質性が高くなっていました。ただ トラネキサム酸の経口、マイクロインジェクション、外用のサブグループ間では異質性は低かった(I2=6.3%)。

表は論文から引用

アジュバント療法としてトラネキサム酸の効果の比較は4つの研究で観察されています。

そのうち3つの試験は経口のトラネキサム酸、残り一つは外用のトラネキサム酸が用いられています。

試験デザインはRCTが3つ、レトロスペクティブコホート研究は1つでした。

RCTのメタ分析ではMASIの減少は0.94(95%CI 0.10-1.79; p = 0.03; I2 = 84%)でTAアジュバント群の方が大きいことが示された。 また唯一のレトロスペクティブコホート研究ではMASIは0.46(95%CI -0.09-1.02、p = 0.10)減少していました。

有害事象

トラネキサム酸の経口投与では1つの研究から稀発月経(女性患者の14.7%)、ゲップ(9.2%)、腹部のけいれん(6.9%)、動悸(2%)、血管性浮腫を伴う蕁麻疹性発疹(2%)が報告されていました。 別の研究では頭痛が報告されていました(11%)。

局所投与では副作用として紅斑、皮膚刺激性、乾皮症、鱗屑化が一つの研究から報告されています。一方、マイクロインジェクションでは軽度の不快感、灼熱感および1〜2 日間の紅斑が報告されています。

結論

肝斑は一般的な色素障害であり、アジア人女性に多く見られますが、11の試験のうちブラジルからの1試験以外はアジア諸国からのもので、成人女性が80〜100%という結果が裏付けています。

肝斑の主な特徴は表皮の色素沈着ですが、真皮血管の増加や血管新生因子の発現も重要な役割を果たしています。

トラネキサム酸はプラスミノーゲン-プラスミン経路を介してメラニン合成を阻害するとされていますし、さらに肝斑の血管成分を有効的に調節すると考えられています。

トラネキサム酸の肝斑への投与が1979 年に初めて報告されて以降、経口・外用・皮内などのルートで単独、もしくはアジュバントとして投与されてきました。

このシステマティックレビューでは肝斑におけるトラネキサム酸の有効性と安全性を評価しています。

今回の結果、トラネキサム酸の単独・アジュバント療法が肝斑に有益であることを示していました。

トラネキサム酸の単独投与についての観察研究で、トラネキサム酸治療でMASIが1.60減少するデータでしたが、サブグループ解析では、MASIの減少効果は経口投与で最大、マイクロインジェクション、局所投与がそれに続いていました。

これらの研究の大多数(71.4%)は3ヶ月後にMASIがチェックされていたことから、治療効果は3ヶ月後あれば評価できる可能性が高いことを示唆しています。

トラネキサム酸のアジュバント療法としては93.1%が経口投与のデータでしたが、MASIをさらに0.94減少させる結果でした。

現在の肝斑治療の標準はハイドロキノン4%、トレチノイン0.05%、フルオシノロンアセトニド0.01%のトリプルコンビネーションクリームですが、この標準治療とトラネキサム酸の単独療法の比較研究はありません。

この論文ではトリプルコンビネーション研究を分析し、標準化されたMASIの平均減少を同定しています。その結果、トリプルコンビネーションクリームはMASIを1.14(95%CI 0.57-1.72、p<0.001、I2 =78%)減少させていますが、トラネキサム酸の単独投与の結果と大差ありませんでした。

肝斑は再発率が高いことが知られていて、研究の一つで、3ヶ月の経口治療で減少したMASIが、トラネキサム酸の投与中断により72%の患者で2ヶ月以内に再燃していました。

今回のシステマティックレビューでは一部の患者で副作用を認めましたが、トラネキサム酸の忍容性は良好でした。

このシステマティックレビューにはいくつかの制限があります。

第一に、肝斑の種類や重症度における研究間のばらつきを判断することができなかったこと。

第二に、治療を受けた患者の継続的な日光曝露に関するデータが不足していたこと。

また、様々なフォローアップ期間、MASIスコアリングの異なるフォームの使用、投与経路の違いや治療アルゴリズムの違い(投与量、処置の数、処置の時間的順序、同時治療など)などから不均一性を生み出しています。

論文の結果を踏えて・・・トラネキサム酸の個人的評価

効果

この論文は過去のいくつかの文献のデータを集積、解析していますが、各データのばらつきがあることからもわかるとおり、この論文の結果を鵜呑みにしてはいけないと思います。この論文でも指摘しているとおり、日光暴露の程度や肝斑の重症度は結果に影響を与えると思いますが、その点を評価できていない点は課題だと思います。

それでもトラネキサム酸の肝斑に対する効果を否定できるデータでもありません。特にトラネキサム酸の内服による効果は期待したと思える結果です。

トラネキサム酸は臨床現場で多くの患者さんに投与されていますが、データからも経験からも安全性の高い薬であることは間違いないと思います。

個人的に肝斑の治療効果を期待したい場合、やはりトラネキサム酸の内服が第一選択になると思います。トラネキサム酸250mgを1日3回(1日750mg)が標準的な投与量ですが、効果発現には一定期間(4−8週間)必要とされています。この論文でも効果判定は3ヶ月後としていることからも継続的な服用が必要となります。

またトラネキサム酸の治療終了後、2ヶ月以内に高確率で再発することを考えると、長期的な服用も念頭におかなければいけないと思います。トランシーノⅡの説明書には2ヶ月で一旦中止する旨の記載がありますが、安全性試験期間が2ヶ月だったという理由ですので、医師や薬剤師に相談しながら服用するといいと思います。

安全性

そこで気になるのは安全性ではないでしょうか。前述したとおり基本的には安全性の高い薬になりますが、トラネキサム酸の服用に注意しなければいけない方もいます。まず腎臓の機能が低下している方は、トラネキサム酸が体内に蓄積してしまうので服用には注意が必要なので、服用を希望される場合は医師や薬剤師に相談してください。特に人工透析患者さん痙攣が起きた報告もありますので、飲まないようにして下さい。

もっとも多いトラネキサム酸の副作用は消化器症状(0.1〜1%(添付文書より))で、論文のデータは副作用を過大評価している可能性もあります。効果と副作用の症状から継続できるか個別に判断していくことが重要になります。

トラネキサム酸には止血効果があるため、血栓症リスクを高める可能性が報告されていますが、一般的には血栓症リスクを増加させるという明確なエビデンスはありません。血栓性素因のある患者さんは飲めませんが、重篤な副作用は稀であり、安全性の高い薬剤になります。

月経困難症などでピルを服用している方もいると思いますが、ピルは血栓症のリスクを増加させるため、トラネキサム酸との併用注意が必要になります。ピルとトラネキサム酸の相互作用に明確なエビデンスがあるわけではありませんが、薬理作用から積極的に投与を推奨する医療機関は少ないです。

トラネキサム酸は肝斑改善薬とした厚生労働省から認可されており、OTC医薬品として「トランシーノⅡ」が販売されています。

ちなみにトランシーノホワイトCクリアはビタミンC製剤でトラネキサム酸は配合されていません。ビタミンCに関してはこちらの記事を参照してください。

今回はトラネキサム酸の肝斑への効果について、一つの論文をもとに考えてみました。トラネキサム酸は安全性の高い医薬品ですので、皮膚科医や薬局薬剤師に相談して使用してみてください。

「美白肌になるためのスキンケアについての記事」も掲載しているので、気になった方はぜひご覧ください。

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