【薬局勤務の救急認定薬剤師の感想】アンサング・シンデレラ

【薬局勤務の救急認定薬剤師の感想】アンサング・シンデレラ

薬剤師がテーマの作品。

これまでまったくといっていいほど、メディアで注目されることのなかった薬剤師。

特にマンガ、アニメ、ドラマ、映画といったカルチャーで薬剤師が取り上げられることはほとんどありませんでした。

2010年に公開された松竹映画「おとうと」(監督:山田洋次)の主人公(吉永小百合)が薬剤師でした。

この映画は家族ドラマとして名作。

ただ近年の薬剤師の仕事が表現されているかと言われれば…。

この映画を見ても薬剤師がどんな仕事をしているかは分からないと思います。

そこから8年。

2018年。とうとう救世主が現れます。

「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師 葵みどり」

病院薬剤師のヒューマンドラマ。

「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師 葵みどり」

このマンガは単に薬剤師が主人公というだけではなく、病院薬剤師の仕事内容や薬剤師としての葛藤などがリアルに再現されています。

これだけリアルなのは、作者の荒井ママレさんの取材がしっかりされているからだと思いますが、初めて読んだとき、薬剤師が作者に違いないと思ったほどです。

当時、病院薬剤師だった私は

「分かるわー」

「こんなことあったなぁ」

共感できる話、薬剤師あるあるのネタがあったりと薬剤師が読んで面白いことは間違いないと思いました。

ただこのネタが薬剤師以外の人にとって面白いのかは分かりませんでした。

ただこのマンガを一般の方が読んでくれたら、

「薬剤師のこと知ってもらえるのになぁ」

「薬剤師になりたいって人が増えるかも」

と想像したりしてました。

そして…。

2020年4月。

なんと石原さとみさんが主役としてドラマ化。

周りの役者さんもそうそうたるメンバー。

これはぜひ皆さんに見ていただいて、薬剤師を知っていただくチャンスです。

「おとうと」公開から10年。

薬剤師の医療現場が丁寧にクローズアップされるときが。

アンサング・シンデレラ/楽しみ方

ネタバレしないように注意しつつ、このマンガの楽しみ方を私なりに伝えていきたいと思います。

このマンガに共感する私のポイントは、漫画に登場する各キャラクターの薬剤師の葛藤にあります。

それぞれのキャラクターで立場や性格それに知識や経験値など違っていますが、実際に臨床現場で働く薬剤師が抱えている葛藤、想いというものを各キャラクターを介して表現されていると思います。

主人公のみどり。患者さんのためになると思えば相手が医師であっても、たとえトラブルになったとしても治療に対して意見、提案する熱いキャラクターです。

頼れる上司の瀬野。幅広い知識と経験、行動力があり、薬剤師だけではなく医師や看護師からも信頼される、そして面倒見もいい憧れの上司。

しっかりした性格の後輩、羽倉。やる気も知識もあるけど、まだまだ経験不足感が否めない。薬の使い方を説明することで精一杯で、患者さんの不安や感情に寄り添えていないときも。

ドラッグストアの調剤で働く小野塚。忙しい日々に追われながらも一生懸命働いているけど、若き日のやる気やモチベーションを見失ってしまっている若者。

ここに紹介したキャラクター以外にも、まだまだ魅力的なキャラクターが揃っています。

個人的には誰かのキャラクターに感情移入するというよりは、各キャラクターそれぞれに共感できたり、共通点を見つけたりします。

「こんな時期あったなぁ」

「やっぱりそう思うよなぁ」

「そうなっちゃうよ、分かるわ〜」

病院で10年以上働いていたい私としては、目標にしていたもの、過去の自分の失敗、信念としてずっと続けてきたことなど様々なことが確認できる漫画になっています。

一般の方には是非、薬剤師の仕事内容を知ってもらうだけではなく、薬剤師が常に抱えている不安や劣等感、向上心そして患者さんに対する熱い気持ちを知ってもらえたらいいと思います。

実際、私が病院勤務してきた10年以上の期間に、病棟で働いてきた薬剤師は延べ40人以上いましたが、誰もが患者さんにとってより良い治療を目指していましたし、最善の努力を尽くしていました。

このマンガは外科医や救急医が主人公のマンガに比べると、派手な演出もないですし、医療としてはミニマムな内容かもしれません。

それでもある程度、現実よりは脚色された医療現場になっているとは思いますが、基本的には地味で目立たないところでコツコツと、それでもプライドを持って患者さんの治療が安全におこなわれるように最善を尽くしているところが描かれています。

このマンガでは薬剤師として(それ以外の職種も)やれること、やるべきことを逃げずに立ち向かっていくことへの葛藤や、患者さんの健康や幸せ、想いに向き合い寄り添うことの大切さを地味に、そして丁寧に描写しています。

この患者さんに寄り添うという気持ちは、薬剤師だけでなく全ての病院スタッフが共通して持っていた感覚だと思います。

このマンガを通して医療従事者の患者さんに対する熱い気持ちが伝わればいいなぁと思います。

アンサング・シンデレラ/実際の現場との共通点、相違点

共通点

このマンガと実際の現場には共通点がとても多くて、しっかり取材されていることが本当によくわかります。

薬剤師あるあるもとても多いですし、調剤や病棟での薬剤師の仕事は、薬学生とかも参考になる内容だと思います。

業務のシフト制などシステム的なものも現実をしっかり再現しているなぁと感心します。

繰り返しにはなりますが、何よりも薬剤師のキャラクターそれぞれの心情や葛藤などの描写は、しっかりと表現できていると思います。

このマンガのまさに肝になるポイントですね。

相違点

相違点はあまりないんですが、やはりそれぞれのキャラがデフォルメされてはいると思います。そうでもしないとマンガにはなりませんから当たり前なんですけどね。

瀬野さんみたいなパーフェクトな薬剤師は滅多にいません。いないことはないですが、希有ですし、判断の早さはすごいです。

私も病院勤務時代はICUや救急などを担当していましたし、それなりに若手の面倒も見てきた自負はあるのですが、瀬野さんの足元にも及びません。憧れます。

主人公みどりの猪突猛進感もかなりデフォルトされていると思います。

みどりのように患者さんのために熱くなっている薬剤師はたくさんいますが、そのまま行動にうつす人はなかなか…。

実際にはうまくことが運ぶように上司に相談したり、試行錯誤しながら慎重に行動することが多いはずです。

とは言ってもデフォルトされているだけで本質的には変わらないと思いますが。

アンサング・シンデレラ/元病院薬剤師として思うこと

頑張れ瀬野さん

この漫画と似たような規模の現場で働いてきたので、ほとんどのことに共感する内容ですし、よくこんなマンガを描いてくれましたと感謝しかありません。

病院薬剤師の頃の私は能力はさておき、瀬野さんとみどりを足して割ったようなキャラだったのかなと思います。

そのなかでも感情移入まではしませんが、瀬野さんの後輩たちに対する優しさや包容力そして陰なる努力(努力してるに違いない)、思入れは瀬野さんが1番です。

瀬野さんの能力もすごいですが、後輩に慕われるようになったり、いろいろな後輩の相談になることは結構大変なことなのです。

瀬野さんのすごいところは薬に関してだけでなく後輩たちの心のケアにまでしっかりしているところにあると思います。

これはさらに個人的な意見になってしまうのですが、病院勤務時代、私は後輩たちにこの瀬野さんのように成長してほしいとずっと思いながら指導してきました。

ただ知識や経験はあっても、なかなか瀬野さんのようにいろいろ人から相談を受けたり、面倒見のいい薬剤師は育たないなぁと実感しました。

お節介にはなってしまいますが、若手の薬剤師にはぜひ、瀬野さんみたいな後輩たちに慕われる面倒見のいい薬剤師を目指して欲しいです。

すべての薬剤師は患者さんに熱い

病院薬剤師といっても病院の規模が変われば、薬剤師の業務も変わってきますし、そもそも病棟の入院患者さんの治療に関わることができない薬剤師もたくさんいます。

そして病院よりも調剤薬局やドラッグストアなどで働く薬剤師の割合の方が圧倒的に多いです。

それでもこの漫画に描かれている患者さんに対する気持ちや葛藤は、どの薬剤師にも当てはまる感情だと思います。

みなさんには病院薬剤師だけではなく薬局薬剤師にも興味を持っていただきたいと思いますし、患者さんに対する熱い気持ちはどの薬剤師にも共通のものだということを知っていただけたら嬉しいと思います。

「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」

テレビドラマが公開されることになって期待と不安が入り混じっています。

スタッフは超豪華でフジテレビの気合を感じます。

なんと主演は石原さとみさん…。

連続ドラマなので原作からいろいろ脚色されると思いますが、どのようになるか楽しみです。

ドラマの感想も書いていけたらと思います。

このブログでは病院薬剤師の業務について分かりやすく解説していますので是非ご覧ください。

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